遺書を書く少年:11「トニーからの手紙」



『ラナさん、便利舎の皆さん、お元気ですか。覚えておいででしょうか、いつか密航を試みたトニーです。あの時は迷惑ばかりかけて、本当に申し訳ありませんでした。
 あれから僕は警察に行き、1時間ばかり説教されて帰されました。本当にそれだけで済んだのです。学校に行ってみると誰も僕の家出の事を知らず、悪い風邪をこじらせて長期欠席したことになってました。僕みたいなのが1、2週間学校を休んでも、誰も気にも止めないのでしょう。教師は知ってたのですが、僕を呼び出して説教した以外後は全く何もありませんでした。かえって、こっちが拍子抜けした感じです。
 ラナさんに言われたことを、地球に帰ってからもう一度じっくり考えてみました。僕はずっと自分は不幸だって思ってた、でも不幸なのは僕だけじゃない、親父やおふくろだって不幸なんです。15歳で死んだ兄も、人をいじめること以外に楽しみを知らないS(実名は伏せさせてもらいます)も、登校拒否症のYもみんな不幸なんです。ただ、不幸に負けていじけてしまうと本当に不幸になるということ、不幸に負けずがんばってる人には、例え結果としての幸福は訪れなくとも、生きていること自体が幸福になるってことがわかったような気がします。
 僕自身、S達にいじめられることに弱気になり、卑屈で卑怯な逃げ腰ばかり取っていました。でも地球に帰ってからは何だかSが哀れに感じられるようになり、今まで抱いていた恐怖感はなくなっていました。僕の顔を見るなり「ようチビ、久しぶりだな、また可愛がってやるぜ。」なんてニヤニヤ笑いながら言ったけど、僕が平然と「ああ、久しぶりだね。」って答えたらマヌケ顔できょとんとしてました。その後もずっと、無関心でも卑屈でもなく、ごく普通の態度をとっているうちにSは段々僕を無視するようになってきました。拍子抜けしたのか無気味な奴と思ったのか、とりあえず僕は第一の困難は突破した訳です。
 あの頃、僕は生きているのが嫌でたまらなくて、毎日自分の自殺する光景を空想してはその夢に酔っていたのです。今考えたらゾッとする、もしあの時自殺していたら、今の僕はここにはいない訳ですから。今、僕には希望があります。生きていくための明確な目標があります。それには体力もつけなきゃならないし、今の学校の成績じゃ難しい。でも僕はあせらず、一歩一歩でも這ってでもその目標に近づいて行こうと思います。
 人には秘密にしておこうと思ったのですが、どうしてもラナさん達には知って欲しかった。僕の夢は、ラナさんやトッピーさんみたいな宇宙パイロットになることです。僕の貧弱な運動神経じゃ難しいことはわかってるけど、決して無理じゃないはずです。その為に、今まで大嫌いだったランニングも始めました。
 僕は今まで電話と電子ファックスしか使ったことがなくって、手紙を書くのは物心ついて以来です。だから手紙の書き方の参考書を見ながら書いてますので、文に変なところがあるかも知れません。でも、何故かはわからないんですけど、このことは電話じゃなくって手紙で伝えなきゃって思ったんです。何だかゴチャゴチャと色んなことを書いてしまって、読みにくい手紙になってしまって申し訳ありません。
 この手紙には返事はいりません。ただ、読んでもらうだけで僕は満足です。でも何かあったら、また便りをよこすかも知れません。最後になりましたが、皆さんの御健康をお祈りします。

トニー・カーライル』


※※※ 小説に登場している人物・団体・製品などの名称は全て架空のものです。例え同名のものが実在しても、本小説の内容とは一切関係ありません。 ※※※

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